新聞営業ハンドブック

新聞営業ハンドブック2020を公開します!

新聞営業ハンドブック2020=第10章《明るい未来に向けて》

1 販売現場の底上げ

2 データ活用の重要性

3 顧客リストのデータ化

労務難を克服する

5 やわらか発想が未来を明るく

1販売現場の底上げ

仕事もイメージも自らChange!

 新聞販売現場は、「きつい」「危険」「きたない」という3K職場と言われることがあります。配達は早朝であり、屋外で働くので雨や雪、猛暑など厳しい天候下で行わなければならないこともあり、「大変な仕事」というイメージがつきまといます。このような悪いイメージが労務難につながってしまうのです。良い人材が確保できなければ、配達・集金・情報提供等のきめ細かく、高いレベルでサービスの提供を行うのは困難になってしまいます。具体的には、不着や誤配の発生頻度が高い、集金時の対応が好ましくない、平等な情報提供をしていないということで、新聞販売店のイメージは、3Kにプラスして更に悪くなってしまいます。

このような悪いイメージの改善は、「今すぐ変えていこう」という積極的で前向きな考えを持って実践していく必要があります。「長年今やっているようにやってきた。だから変える必要はない」「良くわかってはいるが労務難・従業員の高齢化で対応できない」というように変える気が無い、あるいは諦めているのではないでしょうか。それでは新聞販売業界の未来は、新聞部数の減少とともに衰退していくでしょう。日本の新聞販売業界の最も優れている「個別宅配」という最大のサービスを守っていくこともできなくなります。

 そうならないように私たちは何をしなければならないのでしょう。新たにコストをかけることなく、現状の業務を少しだけ改善する事で外部から見るイメージが良くなるだけでなく、中で働く私たち自身の気持が良い方向に変化していきます。まずは、現状を見つめ、変えるべき業務をリストアップして、変えられることから変えていきましょう。

 大事なのは、上から指示をして行うのではなく、従業員一人ひとりがどうしたら良いのかを考え、全員で変えていこうという意識を持って進めていかなければいけません。私が気になった点をいくつか挙げましたので、対応できる販売店は是非実行してみてください。

① 電話応対=名乗り

 私が用事である会社に電話を架けると「お電話ありがとうございます。〇〇会社、△△です。」と相手がでます。全国いや全世界でお客様や取引先から架かってきた電話に対する応対は、ほぼこのような対応ではないでしょうか。お客様は、相手がどこの会社で誰が電話に出たのかを確認することができます。ましてやお客様がわざわざ電話を架けているのに会社名や名前を名乗らないというのは常識が無い・失礼以外のなにものでもないと思います。それでは、新聞販売店ではこの最も基本的なことができているでしょうか。残念ながら多くの販売店でできていないように思います。販売店だけではあ

りません。新聞社でも完全にできているかは疑問です。

 このような電話での応対方法は、決して小さなことと軽視してはいけません。基本的なことは出来て当たり前です。電話応対の名乗りが出来ていないとなれば、その先にある新聞の契約、配達、集金、情報提供、その他の販売等すべての仕事に対する信頼が損なわれます。電話応対の名乗りをする・しないは、販売店規模の大小ではないことも付け加えます。すべての販売店で行ってこそ新聞社全体でしっかりと名乗りが出来ているとお客様に印象付けられるのです。もっとも、電話応対の名乗りができていない業界があるとは思いませんので、できていてもお客様は普通のことなので気が付かないかもしれません。できていない場合、この販売店あるいは会社、従業員はどうなっているのだろうとお客様は気分を害するのではないでしょうか。電話応対の名乗りを行い「新聞屋」と揶揄されることがなくなることを目指してはいかがでしょうか。

② 仕事上のルールを考える

新聞販売現場には色々なルールがあります。新聞配達には、「道路交通法を守る」「騒がしい音を立てない」「不着・誤配等に気をつける」「配達時間を守る」、営業には、「身分証明書を携行する」「決められた服装・見出

しなみ」「特商法で決められた通知をする(第1章3訪問販売のルール参照)」「契約書に必要事項を記入して、お客様に控えを渡す」、店内作業では、「出勤時間厳守」「適切な接客」「報・連・相」等々があります。これらのルールは、必要だから決められています。従って、「自分はこのルールは気に入らないからやらない」ということは決してあってはならないことです。

 たとえば、あなたは朝刊配達をしています。配達順路とは少し違っているが、今、向かいの路地に入って配達をすれば全体の配達時間が短くなるので順路を変えた。しかし、その路地は一方通行で逆走になってしまいます。早朝なので見つからないから良い…とあなたは判断しますか。もちろんNOです。道路交通法違反であるとともに販売店が決めた順路にも違反します。違う順路で配達すると個々のお客様の配達時間が狂ってしまいます。配達する従業員によって順路が違うので、配達時間がバラバラになるのです。

例えば、正しい順路 では5:00に配達されるお客様

から、「時々4:00に配達されるので毎日その時間に届けてくれ」と要望されたら対応できるでしょうか。路地を逆送する道路交通法違反をしなければ対応できません。販売店としては、それを認めるわけにはいきません。一人の従業員の勝手な判断で行った順路変更が、販売店の信用を落としかねない

事態に発展してしまいます。仕事上のルールを守るのは、社会人として基本中の基本です。仕事上のルールは守って当たり前と肝に銘じて仕事をして下さい。それができないのであれば、他の仕事を探した方が良いでしょう。もっとも、その仕事でもあなたは必要とされないでしょうが…。

③ 報・連・相は何のためにあるのでしょう

 新聞販売店も規模の大小はあれ、一つの会社です。会社である以上、会社の代表者「社長」がいて管理職から社員、アルバイト、パートとそれぞれの立場の人達がいます。当然ですが、仕事をする上で上から下へ指示・連絡があります。それを行うのに必要に応じて相談をして、その結果を下から上へ報告する…という「報・連・相」が行われて仕事は進められていきます。

 販売会議において、今月の目標や取組み、注意事項が従業員に伝えられます。「連絡」です。その目標を達成するために作業を行っていきますが、1週間、2週間と日が進むにつれて目標と作業の進捗状況に差が生じてきます。その時点で作業のチェックをして目標達成のために何をすべきかを考えます。ここで上司あるいは社長に「相談」をする事もしばしばあるでしょう。解決策を示されたら作業方法を修正して進めていきます。1ヶ月が経過して結果がでたら上司、社長へ「報告」をして1ヶ月のスケジュールは終了します。これが毎月、四半期ごと、半年、1年、3年、5年とずっと繋がっていくのです。

 日常的に「報・連・相」を行うことで、間違いを減らし、遠回りをしないで効率的な作業を行うことができ、そして結果を出すことが

できる近道なのです。相談していれば適切な指示を受けることができ目標を出せた…という作業が、相談をしないで勝手な判断をして進めたために目標が出なかった…ということになり、あなたにとっても会社にとっても最悪な結果になってしまいます。しっかりと必要な時点で「相談」をして上司の判断を仰ぐことが大切です。

 反対に上司、社長も積極的に従業員とコミュニケーションを取り、作業の進捗状況をチェックすることが必要です。従業員に任せきりで結果が出てから指摘をするのでは遅すぎます。途中経過を見て指示を出すことが重要です。「第2章2組織人として求められるプロ意識」で説明した「PDCAサイクル」がそれです。

 たとえば、ある従業員は契約書等書類の記載方法が丁寧ではなく、不足している項目があるとします。その従業員に対しては、その都度指摘をして直させることが重要です。「第2章3書類作成は正確に」で書いたように新聞販売業界の現場で作成する書類は、手抜きされたものが6~7割を占めているように思います。これは、チェックがなされていないことが大きな原因と思います。チェックされ注意されることで従業員は初めて気が付いて、正しい書類作成が出来るようになっていきます。社長、管理職、事務員は、自分自身の仕事がある中でチェックをすることは、大変な負担ではありますが、それも役割として捉えて実行していただければ、より良い販売店となることと思います。

④ 小さなことの積み重ねが信頼を生む

 ①電話応対=名乗り、②仕事上のルールを考える、③報・連・相は何のためにあるのでしょう…は、いずれも販売店内で出来ることです。それも今日から出来ることです。販売店そしてそこで働くあなた自ら意識改革をして、「チェンジ(Change=変革)」を目指しましょう。Changeする事で、販売店の会社としてのレベルは間違いなくアップします。すでにできている販売店は、より高いレベルを目指してお客様の大きな信頼を得て下さい。そうなれば、新聞販売店のイメージは今以上に良くなります。

 すべての販売店がお客様の大きな信頼を得て、新聞販売店は、新聞社と同様に情報を提供しているマスメディアの一角を担っている会社であることをお客様に認めてもらいましょう。販売現場の底上げをして、地域に根ざした、地域から必要とされる、地域の情報センターとなることで、新聞販売業界は未来に向けて必ず生き残っていく業界となるはずです。

2データ活用の重要性

データを活用した効率的な運用

 今日の新聞営業は、どれだけデータを基に行われているでしょうか。販売店は、旧態依然と営業マン・レディー一人ひとりに任せきり。「契約は足で稼げ」「訪問件数と契約件数は比例する」などの号令をかけるのがせいぜいではないでしょうか。それでは、効率的な営業はできません。足りない人員で訪問件数を確保しようと思うと一人当たりの勤務時間を延ばさざるを得ません。早朝の朝刊配達、人によっては夕刊作業、そして販促作業と1日の勤務時間が長時間になり、疲れも溜まってしまいます。益々労務難を引き起こす要因になってしまいます。もっと効率の良い営業方法はないでしょうか。

 新聞の営業は、現場で行う訪問営業を基本にしていますが、新聞社で行う増紙キャンペーンや読者サービス、イベントなど色々な取り組みが行われていて、その申込みや受付ではお客様の様々な情報を得ることができます。それらの情報を新聞の販促に活かすことはできないでしょうか。他業界であれば、当然収集した情報をデータ化して営業戦略を検討する際の基本データとして活用します。新聞業界も情報をデータ化して効率的で効果的な営業を行っていく時期ではないでしょうか。

① 情報の種類

 それでは、新聞社には営業に使えそうな情報としてどのようなものがあるでしょう。

(1) 増紙キャンペーン情報

 これは、まさにキャンペーンに申し込んで新聞を購読したお客様の情報です。どのキャンペーンが効果があったのか、どのようなお客様が申し込んだのか…を分析できれば、今後のキャンペーンを企画する際に役立ちます。どの時期に誰をターゲットにして、どのような景品を付けて行うか等が計画できるはずです。

(2) 読者サービス情報

 読者サービスといっても色々あります。新聞社が行うイベントに優先的に参加できたり、お店で割引が受けられたり、プレゼント企画が掲載された情報紙が届くという会員制クラブや趣味のカルチャースクール等があります。これらに登録しているお客様の情報も「年齢」「性別」「地域」等の違いによる嗜好傾向の分析ができ、各々クラブ運営や企画に活かすことが可能です。

(3) イベント情報

 美術展やサーカス、芸能、講演会等新聞社が行うイベントの参加者の情報も今後どのようなイベントを行ったら良いかに役立ちます。

(4) 読者情報

 そして何よりも新聞を読んでいらっしゃる読者の情報が一番役立つ情報ではないでしょうか。個人情報だけではなく、地域毎の購読率や購読期間、購読紙の種類や数も役立つかもしれません。

(5) アンケート情報

 紙面改造を目的としたアンケート調査や顧客満足度を知るためのアンケート調査等色々なアンケート結果をデータ化して活かすこともできるでしょう。

(6) 総合的に管理して役立てる

 上記で紹介した情報を1箇所に集約して、ビッグデータとまではいきませんがある程度の規模を持つデータとすることで、個別キャンペーンやイベントの情報では見えてこなかった傾向や特性が発見されるかもしれません。何よりも集約したデータを販売現場で効率的な営業活動ができるようにしようというスタンスで分析を行えば、将来心配される労務難にも対応できるのではないでしょうか。

② 販売に特化した活用

 データベースを具体的にどのように販売現場で活用したら良いでしょう。

(1) 性別や年齢別、地域別の傾向を見る

 新聞購読者の性別や年齢に傾向はないでしょうか。おそらく年齢が高いほど購読率が高くなっていると推測されますが、性別や地域によって違いはないでしょうか。ある情報誌の女性購読者を分析したら、ある地域では40代の女性の率が他地域よりもやや高いという結果が出ました。この地域で営業をする際は40代の女性の優先順位が他地域に比べ上位にくるということになります。

 また、高齢者の購読率が他地域よりも高い地域は、第8章で述べた「現読維持対策」をすぐにでも行ったほうが良いのではないでしょうか。お亡くなりや入院で購読中止になる前に同居家族にも新聞に親しんでもらうという普段の作業が必要になるということです。

(2) 併読者の傾向を読む

 ある情報誌の購読者は、朝刊購読者や他紙朝刊購読者の比率が高いという傾向が出ています。この情報紙の部数を伸ばすには、まず他紙を含めた朝刊購読者から攻めるという営業戦略が組めるのではないでしょうか。

(3) イベント販売にも役立つ

 過去に〇〇サーカスを招致してチケット販売をしたとします。また、今年もサーカスを招致してチケットを販売します。過去のデータがあれば、今回のチケット販売を計画的に行えるのではないでしょうか。たとえば、前回チケットを購入した人は、どのような人が購入したのかを分析します。「小学校中学年」⇒「小学校低学年」⇒「就学前」⇒「小学校高学年および中学生」の順で対象の子どもがいる家庭で販売数が多かったとします。ということは、今回も同様の年齢のお子様がいるお宅を優先に営業をすると効果が出るということです。ここで注意するのは、前回買ってくれたお客様を優先に営業するというのは全く効果がないということに気付いて下さい。今現在、お子様は高校生や大学生、場合によっては社会人になっています。これが、美術展なら前回購入者を優先するのは正解です。年齢は関係なく、美術に興味があるお客様が購入しているからです。

 このように、イベントに合わせたデータの分析が必要になります。従って、情報も将来に役立つためには『どんな情報が必要か』ということを意識して収集しなければいけません。集める情報は活用できる情報であり、活用しなければ意味がありません。活用しない情報なら収集しないでください。活用もしない情報を収集すると現場ではよけいな仕事となり、作業効率が落ち増紙作業にも影響が出てしまいます。特に新聞社の内部報告のための情報集めは、現場を苦しめるだけです。現場目線に立った運用をお願いします。

3顧客リストのデータ化

無駄のないターゲット戦略

 ここまでの章で新聞販売現場は、労務難に直面していると書いてきました。新聞販売店業務の2本柱である配達業務と販促業務いずれにも労務難の影響は出てきます。この項では販促業務について、労務難を克服してどのように効率的な作業を行っていくのかを説明します。

 営業方法については、第4章=新聞営業の基本=で述べたとおり、お客様の情報を集めるStep1 事前準備⇒あなたが新聞の営業をしている事を認知してもらうStep2 種まき⇒お客様に新聞に興味を持っていただくStep3 育てる⇒購読のお願いをするStep4刈取り という流れになっています。Step1からStep4までありますが、ここで重要なのがStep1の事前準備です。お客様の情報をしっかりと掴んでいれば、営業の対策も立てることができます。もちろん、多くのお客様に営業を行う方が少ないお客様に行うよりも成果は出ます。

 しかし、労務難で営業を行う人数が少ない中、営業対象となるお客様全てを訪問するのは可能でしょうか。新聞営業でよく「年に1回は全戸訪問をしよう」という話を聞きます。できるならば理想です。しかし、対象となるお客様が6,000人いるとします。営業を行う従業員が3人の場合、1人あたり2,000人が営業対象です。1日あたりにすると5.4件面談する必要があります。これは365日1日も休まないと仮定していますので、実際にはもっと多くのお客様を訪問して面談する必要があります。配達業務や集金業務、情報提供などその他の業務もあります。その中でこの数を確実にこなすのは難しいといえます。

 そこで、2,000人の中で「購読契約をしてくれそうな人」がわかれば、そのお客様を優先して営業をすることができ、結果も出るでしょう。それでは「購読契約をしてくれそうな人」をどうやって見つければ良いのでしょう。多くの優秀な新聞の営業マンは、「購読してくれそうな人」を見つけると、自分用のメモや人によっては、頭の中で記憶としてお客様情報を残しているのが現状ではないかと思います。これも職人技であり、悪いことではありませんが、俗人的な情報になってしまい、販売店で共有することができません。担当者でなければ、そのお客様の情報が詳しくわからないということです。このような顧客情報の管理方法は、新聞業界だけではなく他の業界でもあることです。このような方法だと、お客様に対する評価や見込度判定を担当者だけが行うので、「このお客様は絶対に新聞は取らない」と思ってしまうと訪問しづらくなったり、訪問しても情報収集しようとする積極的な会話ができない等の障害が発生します。

 そこで、他の業界では営業をチームで行うことでこのような障害が発生しない工夫をしています。お客様の評価を1人で行うのではなく、複数の営業担当者が行うのです。1人では気が付かなかったことが別の人間が気付くということを期待するのです。たとえば、あるお客様に小学校低学年のお子様がいらっしゃるとします。Aという担当者は

独身なので、お客様に小学校の話題を振ることはありません。しかし、Bという担当者は、同じくらいの子どもがいるので小学校の話題が自然に出ます。それによりAさんが知らなかった情報をBさんが得ることができ、その情報を含めたすべての情報を踏まえて営業戦略をAさんBさん2人で立てることができます。つまりお客様の情報は、最低でもAさんとBさんの2人が共有していることになります。さらにこれを一歩進めて、販売店全体で共有することができれば、万が一AさんBさんが退社していなくなっても、他の営業マンがスムーズに担当を引き継ぐことができます。それでは、販売店全体で情報を共有するためにはどうしたら良いでしょうか。

① 顧客リスト

 営業を行う会社は、なんらかの「顧客リスト」を持っています。新聞販売店も同様で、お客様の「お名前」「住所」「電話番号」「購読紙」から始まって、優秀な販売店であれば「家族構成」「仕事」「趣味」などを把握しているでしょう。これを基に「見込度」を付けて営業戦略を立てます。

 しかし、この顧客リストの更新が手強い作業なのです。顧客リストの情報が新鮮であればあるほどその情報を活かすことができますが、配達、集金、情報提供等日常作業を行いながらの営業活動のため、得た情報を顧客リストに更新する作業を行う時間的余裕が取れないのです。そのため、自分だけのメモや頭の中の記憶に留めるしか方法が無いというのが現状なのです。だからと言って、このままの状況で良いということはありません。

 密度の濃い新鮮な顧客リストは営業戦略の強い味方となり、それは結果へと繋がります。そして、顧客リストがPCデータ化されていれば、さらに何百倍も効果的に活用することができます。

② データ化

 顧客情報をデータ化すれば色々な場面で役立つというのはなんとなくわかっていると思います。具体的にはどのように役立つのでしょう。

(1) 営業戦略の立案

 顧客毎にお客様のおかれている環境や新聞に対する考え方などを踏まえた「見込度」により、お客様へ提案する記事を選んだりお勧めするタイミングを計ったりできます。たとえば、事前に見込度別に次回訪問まで何日の間隔を開けるか…を決めておきます。実際に営業を行った後に訪問結果をPC入力すると「次回訪問日は、〇月〇日」と表示されます。複数の顧客の次回訪問日をソート(並べ替え)して、販促日に訪問する顧客を選び出すことができます。

 また、学習指導要領の改訂時期に高校生・中学生・小学生それぞれに合わせた紙面販売を計画した場合には、お子様の学年または年齢を把握できていれば、ピンポイントで営業を行うことが可能です。

 他には、高齢者向けのサービスを行っている販売店の場合、該当する世帯を抽出して営業を行うことができます。

 つまり、販売店側が販売戦略に会わせて、営業スタッフに訪問するお客様を具体的に指示することができるわけです。現在は、販促するターゲットは営業スタッフに任せて、具体的に販促指示を出すことがないのが新聞販売現場ではないでしょうか。そもそも、会社が従業員に具体的な営業指示を出せないという業界は珍しいと思います。きめ細かに従業員の行動を把握して、教育し、営業指示を出す…ということを行いたくても、販売店労務難で顧客リストの更新ができず、それらの作業ができないというのが現状なのです。顧客リストのデータ化ができれば、労務難であっても適切な作業支持が従業員に出せるようになります。

(2) PCデータ化は難しいのでしょうか

 販売店の規模にもよりますが、新聞社の協力があれば決して難しくはありません。基本となるアプリケーションソフトは、オリジナルを作るのではなく、PCに入っている表計算ソフトを使えば良いのです。そうすれば費用は「0円」です。表計算ソフトを使用するメリットは他にもあります。販売店独自の顧客リストを作ることができ、個別販売店毎の地域性や環境、事情、希望に合わせたリストを作ることが可能です。

入力するのに手間がかかるのでは? と思うでしょう。最初から顧客全てのデータベースを作ろうとすると大変です。そうではなく、1件訪問したら1件入力をしていけば良いのです。1ヶ月⇒3ヶ月⇒半年⇒1年⇒2年…とデータは蓄積されていき、自然と有効に利用できる大切なデータベースが出来上がります。

 

 

 

 

 

(3) 実際の顧客リストを見てみましょう

「第4章2リスト管理」で示した顧客リストを例にしてみます。

 これは、販売店が事前に「Cランクの場合は3週間後に訪問する」「試読獲得の場合は7日後に訪問する」と決めておいたので、PCが指示を出せるのです。このように販売店でルールを決めて運用でき、そのルールはいつでも変更することができます。  

また、訪問した「曜日」と「時間」「面談相手」が記録されるので、「決定権者」に会える曜日と時間帯が把握でき、効率的に営業することが可能です。面談率が上がれば、少人数でも面談件数が増えることになります。

次ぎに家族情報を記録した画面を見てみましょう。

 ここには、「決定権者」「年代」「学年」「職業」「趣味・嗜好」などいろいろな情報を記録することが出来ます。この情報を活用すれば、小学生向けのイベントを開催する際に小学生のいるお宅だけを抽出すことが出来ます。趣味・嗜好を見てイベントチケットや刊行物の営業が出来るかもしれません。お年寄り向けのサービスを行っている販売店であれば、お年寄りの情報を活用できます。新聞の営業には「決定権」がわかっていれば、有効な営業が出来るでしょう。

 下表のように顧客リストには、刊行物やチケットなどの販売実績を記録しておくことも可能です。

 過去の購入履歴を参考に購入の可能性の高いお宅に営業を行うことが出来ます。

 顧客情報を活用するだけではありません。スタッフの作業成果を数字で示す事もできます。

 新聞好子さんが、行った営業とその結果は、顧客リストに日々入力され蓄積されていきます。それを基に新聞好子さんの10月1日から翌年1月31日までの営業成果を見てみましょう。それが上の「スタッフ営業評価カード」です。訪問件数が43件で面談できたのは42件、面談率98%と優秀です。結果はというと契約3ヶ月以内が2件、試読が2件とちょっと物足りない感じがします。面談率が高いのに何故結果が出ないのか…訪問結果と見込度の数字を見ると「情報収集」「情報提供」に力を入れているため「見込度のランクアップ」に繋がらず、試読獲得件数が少ない…という評価が出来ます。これを新聞好子さんに伝えて、翌月からの作業計画に活かしていくことができます。一方、《販売実績》のグラフを見ると、10月、11月、1月と確実に実績を上げています。

かなり優秀な成績です。というように数字でスタッフの営業行動や結果・実績を評価することができます。スタッフの良い所を褒めて伸ばす。不得手な作業を数字で示して具体的に改善を促すことが可能になります。

 もちろん、その他にも活用方法はあるでしう。販売店が必要とする情報を得て、顧客リストで情報管理をすることで販売店の事情や状況に合ったデータ活用が出来ます。そうすることで無駄なく効率的な営業ができ、労務難を克服していくことが可能になるのではないでしょうか。

 先述したように訪問結果を1件々データ化して、ある程度のデータ量になって初めて活用できるようになります。一朝一夕にはいきません。しかし、やり始めなければデータ化はできません。是非、検討をお勧めします。

労務難を克服する
人員確保のために新しい発想を・・・

 先にデータ利用による営業面における労務難対策を示しましたが、新聞販売のもうひとつの柱である『配達』はどうしたら良いでしょう。日本の個別宅配はすばらしいサービスです。これから高齢化が加速していく中で、個別宅配は守っていきたいサービスです。個別宅配を続けていくことで新聞部数の維持もできるのではないでしょうか。しかし、この宅配こそが労務難の一番の問題となっています。つまり人がいなければ配達は出来ないということです。部数が減っている現状では、一人の配達員が配る部数が一定だと考えると、配達エリアは毎年広がっていくことになります。エリアが広がると配達時間が増加します。配達員の高齢化も進んでいます。高齢者が広範囲を配るのは難しい

とわざるを得ません。それではどうしたら良いのでしょう。

 これだ!というものは残念ながら思いつきません。しかし、なにもしないで個別宅配が維持できなくなるのを待っているわけにはいきません。わずかな可能性かもしれませんが、実現できそうなものを考えてみました。

① 初心者でも配達できる方法は無いでしょうか

 地理的条件や販売店の考えによって一人が配る新聞の部数は異なりますが、200件から300件のお宅に配達をすることを考えてみても、初心者が1日や2日で配達できるようになるとは思えません。配達方法も徒歩、自転車、バイク、自動車など様々です。それぞれ新聞の積み方などの事前準備方法もそれにかかる時間も違ってきます。それらの作業に慣れるのに一週間程かかるのは、必要な時間と考えるしかないでしょう。

 順路帳の活用は、言うまでもありません。宅配するお宅、銘柄、注意事項が書かれた順路帳無しでは、覚えるのも一苦労です。順路帳を準備するのが面倒だからと言って地図で覚えるのは、結局遠回りになります。初心者が覚えることを念頭に普段から準備しておくことが大切です。

 斬新な発想をします。タブレット端末、地図情報、GPS(全地球測位システム)を使った『電子順路帳』はいかがでしょう。タブレット端末をバイクにセットして配達に出ます。タブレット端末にはGPSが内蔵されているので、ナビゲーションシステムが稼動します。タブレット端末に表示される地図は、住宅地図です。配達する1件目のお宅だけを覚えておきます。1件目のお宅に着きました。タブレット端末の地図には、新聞の銘柄が表示されます。その指示通りに新聞を投函します。地図には、次ぎの配達先のお宅が表示されています。そこに向かってバイクを走らせます。ナビゲーションシステムが稼動しているので、バイクが移動するのに併せて地図表示も移動していきます。当然右左折や直進も地図を確認しながら配達するお宅を目指すことになります。

配達するお宅の前に着くと表示される銘柄を投函していきます。注意事項があるお宅の場合は、その注意事項も表示されます。たとえば、「必ずポストの奥へ落とす」「雨の日はパック」などです。更に宅配するお宅を誤って通過してしまったら、警告音が鳴るというのはどうでしょう。こんな夢のようなシステムがあったら、無理なく配達順路を覚えることができるのではないでしょうか。コストパフォーマンスを考えると実現にはまだまだ時間はかかると思いますが、いずれこんな時代が来るかもしれません。もし、このシステムが日本語表示だけではなく、英語、中国語、韓国語、タガログ語など色々な国の言葉で表示できれば、外国人労働者に活躍してもらうことも可能かもしれません。

 ② スモールエリアで配達

 都心部では、配達するお宅が密集しているので、狭い面積の中で多くの部数を配ることが可能です。しかし、過疎地や山間地など、家と家が離れている地域は次ぎの家、または次ぎの集落に行くのに時間がかかります。降雪地域の冬場は更に時間がかかるでしょう。また、このような地域は、現在配達をしている人が引退してしまうと、配達を引き継ぐ人がいなくなるというケースが多くあります。このような問題を抱えている販売店は多くあるのではないでしょうか。

 次のような配達方法はいかがでしょう。基幹となる道路から山間地域へ入る枝道の別れる所にあるお宅の敷地に、その山間地域分の新聞を置いておき、山間地域の配達員がその新聞を取りに来て地域内に宅配するという方法です。限られた人員で多くの人に新聞を配達するには必要な配達方法と考えます。この山間地域の配達方法をモデルとして考えてみます。まず、50軒位の新聞購読者の集まりをひとつの配達エリアと考えます。購読率を50%と考えると実際には100軒の家がエリア内にあります。地理的条件は、平地で徒歩または自転車で配達が可能な地域と仮定します。販売店が行う実際の配達部数からみると小さなエリアです。スモールエリアです。販売店は、このエリアの拠点となるお宅に50部の新聞を届けます。この地域に住む配達員が、各々のお宅へ宅配をしていきます。エリアの広さにもよりますが、1時間位の作業時間を考えています。配達員も60歳代または70歳代とシルバー世代を考えています。このエリア内で配達員が複数いても良いと思います。シルバー世代を配達員とすることは、

年齢を重ねてもまだまだ元気というお年寄りに働くやりがいを提供することにもなります。購読料については、口座引落やクレジットカード決済化を進めることで、高齢の配達員の負担を軽減できます。

 現在、地域でのつながりを重視する地域包括ケアシステムの実現を厚生労働省が目指しています。これは、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されることを目標に自治体が行うものです。新聞販売業界も何か一役を担うことはできないでしょうか。たとえば、現在も多くの新聞販売店が行っている宅配時の異常探知はいかがでしょう。新聞を配達する家に新聞が溜まっている…電気が一日中点灯している…普段出かけている時間帯に自動車がある…などの異常に気が付いた配達員が販売店を通して地域の民生委員や救急、警察等に連絡をするというシステムです。これはまさしく地域包括ケアシステムの趣旨に合致したものではないでしょうか。

 ある販売店は、早朝に近所の老人クラブと道路や公園の清掃をして、清掃が終わると参加したお年寄りが販売店でお茶を飲んで一服していきます。ここで販売店はお年寄りの要望、情報などを得ることができます。お年寄りは、地域のお年寄りと親交を深めることができます。まさしく地域の情報センターであり、清掃活動という形で直接お年寄りと触れ合っています。これも、お年寄りを地域で見守るという地域包括ケアシステムの目的と同様の活動といえるのではないでしょうか。高齢化が進むこれからの時代の新聞販売店のあるべき姿のひとつの例といえると思います。

5やわらか発想が未来を明るくする

みんなで発送・みんなで明るく

 第10章は、私の個人的考えや意見を中心に書いてきました。内容に反論や実現性が無いとお考えの皆様も必ずいらっしゃいます。そういう方がいらっしゃるということを理解したうえであえて書かせていただきました。

 私は、国家公務員として約20年霞ヶ関で行政に携わっていました。その時の教えや経験は、新聞販売という職にも活かされてきました。行政業務を経験した人間が新聞販売業を考えると、違った角度から見る・見え方が違う・別の気付きがある…など人と違う考え方が出来たと思います。その経験を基に意見を述べさせていただきました。

 最後になりますが、新聞業界はどうなっていくのでしょう。第1章で書きましたが、「インターネットが100%普及しても新聞を購読する人は『0』にはならない」というのは本心です。新聞業界と新聞販売現場には、まだやらなければいけないことが残っています。それが、この章で書いた「データ活用」「顧客リストのデータ化による労務難の克服」「最新技術を活用した個別宅配の維持」と「販売現場の底上げ(Change=変革)」です。これをやらずして諦めることはできません。これらを実行していけば、他にも気付くことは沢山あると思います。私より数段頭が良く、気付きも多く、改善策を発想できる人が多くいらっしゃるはずです。この本がそんな方達の刺激になってもらえたら幸いです。

 最後にもう一つ夢物語を語らせて下さい。紙の新聞はインターネット情報に脅かされています。これは紛れも無い事実です。しかし、インターネットに紙の新聞が取って代わられてしまうのでしょうか。もしそうなってしまったら、不便に思う人達は大勢います。そうならないための発想を新聞業界でもう一ひねりしてみましょう。

 紙の新聞を発行する全国の新聞社が各社インターネットのニュースサイトを立ち上げます(これはすでにほとんどの新聞社が実行しています)。このニュースサイトを閲覧する条件を全国の新聞社が同一にするのです。その条件とは、「紙の新聞を契約していれば、全国全てのニュースサイトが閲覧できる」逆に言えば「必ず紙の新聞を購読していなければ、ニュースサイトは閲覧できない」という条件です。ニュースサイトを有料にすると、紙の新聞は読まないで有料ニュースサイトを契約するお客様が多くなります。そうなると益々紙の新聞を読む機会を失うお客様が増えていきます。その悪循環を断つのです。全国紙でもブロック紙でも地方紙でもかまいません。希望する紙の新聞を購読すると、新聞社が運用する全国全てのニュースサイトを閲覧できるという条件です。紙の新聞離れを防ぐ大胆な発想です。これは、私個人の発想です。実現可能かどうかはわかりませんし、紙の新聞の部数減に歯止めをかけることができるのかもわかりません。しかし、何か大胆な事をしなければ、紙の新聞は「0」を目指して突き進み、衰退していくのは間違いありません。

 新聞販売に携わるみなさんの柔軟な「やわらか発想」で、この本で述べた以上の効果的ですばらしい方策を見出して実行していって下さい。それは、新聞業界の発展をもたらし、みなさんにとっても明るい将来となっていくことでしょう。

私は、紙の新聞のファンであり、サポーターであり、ブースターです。紙の新聞に明るい未来を!