第一章
=業界の現状と営業の基本知識=
1 新聞業界の現状
2 新聞の魅力
3 訪問販売のルール
4 個人情報の取り扱い
1 新聞業界の現状
新聞業界の現状を知り、自分のおかれている立場を知る
新聞の発行部数が右肩下がりに減少し始めてからかなりの年月が経ちました。活字離れやインターネットの普及などが理由に挙げられています。その検証例として下のグラフをご覧ください。
棒グラフは新聞(一般紙)の発行部数です。2000年には122紙の一般紙があり、全体で4,740万部発行されていました。発行部数は年々減少して行き、2015年には4,069万部、2018年度には4,000万部を割ってしまい3,682万部まで落ち込んでいます。一方、折れ線グラフはインターネットの普及状況です。2000年の37.1%から2018年には79.8%と8割の方がインターネットを利用するまでになりました。二つを比べると新聞の発行部数の減少とインターネットの普及率がちょうど反比例していることがわかります。
私たちが営業をする際に感じるお客様の厳しい反応は、このように実際の数字によるデータからみても明確で、新聞業界は大変厳しい状況であると言わざるを得ません。
しかし、このまま新聞が無くなってしまうのかというとそうではありません。たとえインターネットが100%普及しても新聞を購読する方はいるでしょう。購読する方がいらっしゃる限り新聞は発行されます。新聞が発行される限り、私たちは営業をして、新聞を配達して、そして購読料を集金するという業務を続けていく必要があります。新聞の将来を悲観するより、新聞を必要としているお客様を増やし、また読者様を維持することで自分自身の仕事量を安定させることを目指しましょう。
2. 新聞の魅力
新聞の魅力を理解して営業に活かす
インターネットが100%普及しても新聞の発行は「0」にならないと言いましたが、それでは新聞の魅力は何でしょう。それを理解すれば、新聞の営業も自信を持ってできるのではないでしょうか。
むかしから言われている新聞の良い点は多くあります。そのいくつかを紹介します。
① 比較して記事を読むことができる
新聞を広げて全体を見渡すと「見出し」が目に入ってきます。大きい見出しの記事は重要であることがわかります。見出しを見て興味のある記事や自分自身にとって大切な記事であることを判断する事ができます。また、目的の記事の横に思いがけず興味ある記事が掲載されていることもあります。
② スクラップをして記録することができる
切り抜いたりコピーをしてスクラップすることができます。必要な時に取り出して読むことが可能です。小学生の自由研究にも利用されています。
③ 文章が正確で完成度が高い
記事を書くことを仕事にしている新聞記者の語彙力やことばの正確性は相当高いレベルにあります。また、新聞社内でのチェック機能が優れているので、発行された新聞の文章の完成度はハイレベルで正確といえるでしょう。
④ 文章をまとめる力を養う事ができる
新聞の記事は、「一文一義」で書かれていて理解しやすいと言われています。文章の「。」から「。」の間の一つの文章には、一つだけの事が書かれています。一つの文章の中に二つのことが書かれていないので、簡潔に読めて理解する事ができます。いろいろな新聞社がコラムの書き写しノートを出して、学生からお年寄りまで利用しています。書き写す事で更に要約力が高まります。
以上4つ紹介しましたが、ある女子大学の女性総長やTV出演もしている有名私立大学の教授が①~④と同様の新聞の魅力や有益性を著書等で紹介しています。
また、受験、就職、仕事の場で必要な日本語を身につけるのに新聞が有効とも言っています。
新聞には、このように応援してくれる著名人がたくさんいます。このような方々が新聞の有益性を紹介していることを知ると自信を持って営業する事ができるのではないでしょうか。
3 訪問販売のルール
最低限のルールを学ぶ
新聞営業の基本は、「訪問販売」です。お客様のお宅に訪問して、新聞をお勧めします。この訪問販売には、「特定商取引に関する法律(以下特商法)」という法律で決められたルールがあります。最低限のルールを守らなければ、罰則規定があり、販売店や新聞の発行本社へ迷惑をかけてしまいます。最悪の場合は、あなた自身に罰則が適用されることもあります。これから説明するルールをしっかり守って営業しましょう。
① 自分が誰なのかをしっかり名乗ります
お客様に「身分証明書」を提示し、「所属」と「氏名」を名乗らなければいけません。これは、特商法第三条で決められています。
② 新聞の営業で訪問したことを伝えます
同じく特商法第三条で、「新聞の営業で訪問したこと」と「銘柄(新聞名)」を伝えなければならないことが決められています。
③ 営業の話をしても良いという了解を得ましょう
お客様に「新聞の営業をしても良いか」という了解を得ます。これも特商法第三条の二で決められています。
①から③を実際の営業の場面を想定して話すと以下のとおりになります。
あなた (身分証明書を見せながら)○○新聞、△△販売店の新聞太郎と申します。
あなた 本日は、○○新聞の7日間無料お試しのご案内でうかがいました。
あなた お時間少々よろしいでしょうか。
どうでしょう。決して難しくはありませんね。お客様が「どんな話なの?」と話を聞く意思を示したら営業に入れば良いのです。ただし、「今は忙しい」「わかる者がいない」と言われたら帰らなければなりません。「帰ってほしい」と意思表示されたのに帰らなかったり、高齢者や未成年者など判断が十分にできない相手と契約をすることは特商法第七条で「迷惑行為」とみなされます。改善命令や業務停止命令という行政処分の対象となり販売店に迷惑をかけてしまいます。
また、「宅配便です」などと偽ってドアを開けさせたり、新聞の銘柄を偽ったり、契約期間やクーリング・オフについて隠して契約する。ドアを無理やり開けたり叩いたり、乱暴なことばをかける行為は、行政処分はもとより3年以下の懲役または300万円以下の罰金という厳しい罰則があります。
契約後は、新聞の銘柄、契約期間、金額など決められた事項をきちんと記載した書面(契約書)の控えを必ずお客様に渡さなければいけません。また、この書面(契約書)を受取った日から数えて8日間以内であれば解約することができることをクーリング・オフといいます。クーリング・オフについても正しく伝える必要があります。書面(契約書)に不備があったり、必要な記入事項が欠落していたり、虚偽(うそ)が記載されている場合は、行政処分の対象であるほか、100万円以下の罰金が科せられます。
懲役や罰金と聞くと恐ろしく思うかもしれませんが、お客様に迷惑や心配をかけないように常識をもって営業すれば何の心配もいりません。お客様の立場になって営業しましょう。
4 個人情報の取り扱い
業務上知り得えた個人情報の取り扱い
個人情報にも注意が必要です。2005年4月に施行されたのが個人情報保護法です。新聞の販売や配達、デリバリーのお届けなど新聞販売店の行う業務では、個人情報にふれる機会が多くあります。
以下に新聞販売店業務であり得る場面を想定しました。どのように個人情報を扱えば良いでしょうか。「○」「×」で考えてみて下さい。
① 新聞配達中に「○○さんの家はどこですか?」と尋ねられ、すぐ近くなので教えた。
「○」 or 「×」
② お客様から他のスタッフさんにチケットをお願いしたいのでスタッフさんの電話番号を教えてほしいと言われ、携帯の番号を教えた。
「○」 or 「×」
③ 順路帳【注】は住所や電話番号が書かれていないので個人情報ではない。
「○」 or 「×」
※ 注:順路帳⇒新聞を配達する順番に「銘柄」や「注意事項」「家の特色」等が
記入されている帳面
④ 新聞配達中に家を尋ねられた。新聞配達用の色塗りされた地図を持っていたので、見せた。自分からは個別の家は教えなかった。
「○」 or 「×」
⑤ 新聞の期間止め【注】指示があったので、忘れないように「住所」
「氏名」を書いたメモをバイクに貼って配達した。
「○」 or 「×」
※ 注:期間止め⇒旅行や出張である期間留守にするため、その期間だけ
新聞の配達を止めること。
《答え》
① × … 相手は名前だけで家を尋ねたのに対し、あなたは家を教えました。○○さんの家の場所と住所を漏洩した事になります。
② × … 同僚の情報も個人情報です。お客様へはこちらから折り返す旨を伝えましょう。
③ × … 名前だけでも個人情報です。順路帳の紛失には気をつけましょう。
④ × … どの家が新聞を購読しているかの特定ができます。セールスに悪用されるかもしれません。
⑤ × … 通行人が個人情報を目にすることができます。また、留守の期間が洩れてしまいます。防犯上とても問題があります。